「星の教室」を読んで…過去と向き合う力について
高田郁さんの小説『星の教室』は、夜間中学校を舞台にした物語です。
昼は働き、夜は学校に通う主人公の”さやか”さんを中心に、さまざまな事情を抱えながら「学び直し」の場に集まった人たちの姿が描かれています。
年齢も立場も違う彼らが、同じ教室で机を並べ、学ぶ時間を重ねていく中で、それぞれが過去と向き合い、少しずつ前に進んでいきます。
この物語には、勉強することそのもの以上に、「人と関わりながら生き直していくこと」の難しさと温かさが、静かに描かれていました。
登場人物それぞれの背景に心を打たれる場面は多くありますが、私の心にいちばん強く残ったのは、さやかさんが両親と向き合う場面でした。

さやかさんは、両親に対して強い不満をぶつけるわけでもありません。
かといって、最初から理解し合えているわけでもない…
むしろ、「どうせ言っても分かってもらえない」「わざわざ波風を立てる必要はない」
ぞんな気持ちを抱えながら、あの日から(中学生の時の出来事)両親と距離を保っていた感じでした。
家族だからこそ、期待してしまうこともあるでしょう。
期待してしまうからこそ、傷つくことを恐れて、言葉を選び、沈黙を選んできた。
その積み重ねが、さやかさんと両親との間に、見えない溝をつくっていったのだと思います。

でも、ある日、夜間中学校に通い始めたことで、さやかさんは少しずつ変わっていきました。
それは、勉強ができるようになったから、というだけではなかったように思います。
学ぶことや言葉の大切さを知り、自分の思いを整理できるようになったことに加えて、人(仲間)との関わりの中で「否定されない経験」を積み重ねたことが、さやかさんが両親と向き合う土台になっていきました。
もちろん、両親と向き合う場面では、すべてが綺麗に解決したわけではないのでしょう…
それでも、「向き合うこと」を選んだ、その逃げなかった姿勢こそが、さやかさんの成長なのだと感じ、とても強く胸に残りました。

さて、キャリアコンサルタントとして人の話を聴いていると、「過去を変えられない自分」を責め続けている方に出会うことがよくあります。
「あのとき、こうしていれば」
「別の選択ができたのではないか」
そんな言葉が、何度も繰り返されたりします。
だけど、キャリアの成長とは、過去を消したり、なかったことにしたりすることではありません。
むしろ、「あのときの経験があったから、今の自分がいる」と、少しずつ言葉にできるようになることだと感じています。
さやかさんが夜間中学校で得たのも、そんな力だったように思います。
過去をただの「つらい出来事」として終わらせるのではなく、意味を見出し直し、自分の人生の一部として受けとめていく力。
だからこそ、向き合うのが難しかった両親とも、逃げずに向き合えたのではないでしょうか…

キャリアは、職業を選ぶことだけではありません。
自分のこれまでをどう受けとめ、これからをどう生きていきたいかを考え続けること。
その積み重ねこそが、人生のキャリアなのだと思います。
『星の教室』は、学び直しの物語であると同時に、人生と向き合い直す物語でした。
そして読み終えた今、私の中に残っているのは、感謝を忘れずに生きていきたいという気持ちです。
過去も、人も、簡単には割り切れません。
それでも、支えられてきたことに目を向け、「ありがとう」を伝えながら生きていきたい。
この物語は、そんな大切なことを、私に教えてくれました。
国家資格キャリアコンサルタント
荒川 貴司





